「世界が変わるシステム思考」シリーズについて
ここ数年、日本でも「システム思考(Systems Thinking)」という言葉をよく耳にするようになりました。
「システム思考は、複雑性を増す時代の課題解決には必須のツールだ」とか、「システム思考なら、複雑な問題にアプローチできる」などと言われますが、いざ使うとなると正直難しそう、という印象を持つ方も多いのではないでしょうか。
それもそのはずで、私たち人間の思考には、目の前の出来事に注目し、物事を「AだからB」と直線的かつシンプルに捉えようとする傾向があります。一方でシステム思考は、複雑さを扱うものだけに、どうしてもある程度の複雑さを伴う。システム思考が難しく感じられるのは、まさにこの「人間の思考のクセ」に逆らうものだからなんです。
でも、だからこそ、学ぶ価値がある。
システム思考は、気候変動や経済などのとても複雑なシステムの分析や予測にも使われていますが、人間関係のモヤモヤや職場で繰り返し起こる問題、うっかりするとこじれてしまう家庭内のやりとりなど、日常の「なんでいつもこうなっちゃうんだろう?」を見つめ直すための道具としても、とっても役に立つんです。
このブログシリーズでは、YouTubeで公開中の動画シリーズ『世界が変わるシステム思考』をベースに適宜補足を加え、システム思考をまったく知らない方にも親しみやすく、同時に、興味を持たれた方にも手応えや足がかりが残るように、ブログ版ならではの解説や事例もご紹介していきます。どうぞお楽しみに!
今回の記事では、動画の第1・2回目をフィーチャーしてお届けします。
「世界が変わる」って、どういうこと?
このシリーズのタイトルは「世界が変わるシステム思考」。ここで言う「世界が変わる」って、どのような意味なのでしょうか。
システム思考を学んでも、その瞬間に世界そのものが劇的に変わる、なんてことは残念ながらありません。でも、システム思考を学ぶと、私たちの世界に対する「見え方」が変わる(図1)。そして、世界の見え方が変わると、私たちの選択や行動は自ずと変わり、その積み重ねがゆくゆくは世界そのものを変えていく。システム思考を学ぶことを通じて、世界の未来は、確かにじわじわと代わっていく。
そんな願いと期待を込めて、このシリーズは「世界が変わるシステム思考」と名付けられました。

そもそも「システム」ってなに?
システム思考を理解するためにまず押さえておきたいのが「システム」の定義、つまり、「システム」という言葉が何を指しているのか、ということです。
「システム」と聞くと、車やGPS、交通網など、目的のわかりやすい人工的なものを思い浮かべがちかと思います。それらももちろん「システム」ですが、システム思考における「システム」はもっと広い概念なんです。
たとえば、地球温暖化現象、会社や組織、家族や地域のコミュニティ、制度・政策──これらはすべて、「システム」と捉えることができます(図2)。
大切なポイントは、「要素が互いに影響し合っている」という点。
システム思考の名著『世界はシステムで動く―― いま起きていることの本質をつかむ考え方』の著者ドネラ・メドウズ(Donella H. Meadows)は、システムを「何かを達成するように一貫性を持って組織されている、相互につながっている一連の構成要素」と定義し、あらゆるシステムは、「要素」と「相互のつながり」、「機能または目的」の3つで成り立っているとしています。

システムは「意図しない結果」を生み出す
システムの厄介なところ、そして面白いところは、常に意図した結果だけを生み出すものではないということです。良かれと思ってしたことが思わぬ結果を生む。これって、意外とよく起きているのではないでしょうか。それだけではなくて、何かが思わぬ結果を生み出していることに気づくのに何年もかかってしまったり、いざ露呈しても、そうした現実を受け入れられなかったりする場合も少なくありません。
たとえば、
- 便利さを追求した結果、環境問題が深刻化する
- 組織の効率化が、かえって人の疲弊を招く
- 子どものためを思って口を出しすぎて、子どもの成長が妨げられてしまう
誰かが悪意を持って働きかけたために起きているとは限りません。それぞれが良かれと思って頑張っていても、事態が好転しない時もある。そんな時に有用なのが、問題を生み出す「システム」を捉える思考法。すなわち、システム思考です。
システム思考とは?
ここで、簡単にシステム思考の歴史をご紹介しましょう。
システム思考は、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授のジェイ・フォレスター(Jay Forrester)が1950年代に創始したSystem Dynamics[※1] という学問分野に由来する、対象をシステムと捉えて分析する思考技法です。望ましい目的を達成できるように要素間の相互のつながりを理解する能力、とも定義されています。
システム思考を用いたアプローチにより、それらの問題を生み出している要素やそれらの相互作用により生まれる構造、そして、構造を生み出すメンタルモデル[※2] が少しずつ解きほぐされ、問題を生み出しているシステムそのものを変化させることができるようになります。
システム思考の3つの特徴
先述のドネラ・メドウズをはじめとするシステム思考の研究者たちが強調しているのは、この思考法がものの見方そのものを変えてくれるということです。ここでは、特に重要な特徴を3つに整理してみます。
① 全体像を把握しようとする
私たちは問題に直面すると、つい原因をひとつに絞り込もうとします。でもシステム思考では、部分的な出来事ではなく、「全体として何が起きているのか」を捉えようとします。そのためにシステム思考では、多くの視点、つまり、他者の力が必要になります。
② 時間的変化を捉える
「今どうなっているか」だけでなく、「これまでどう変化してきたのか」「これからどうなりそうか」──時間的な幅のなかで変化のパターンを捉えることも、システム思考の大きな特徴です。だからこそ、目の前の出来事に囚われず、本質的なアプローチを試みられるようになります。
③ つながりや構造を可視化する
システム思考では、しばしば図(因果ループ図:図3)やモデルとしてシステムを描き出します。ここで重要になるのが、「フィードバックループ」の考え方です。ある行動が結果を生み、その結果がまた次の行動に影響を与える──この循環する構造を可視化することで、なぜ問題が繰り返されるのか、どこに働きかけると変化が起きやすいのかが見えてきます。

従来の問題解決アプローチとの違い
従来の問題解決のアプローチとシステム思考との違いには、たとえば、こんな点があげられます。
従来型のアプローチは、物事を「線形」で考え、「細分化」し、個々の「要素」に着目して「過去の成功体験」をベースに解を導き出すケースが多いですが、こうしたアプローチは、原因がはっきりしている技術的な問題解決に適しています。
一方のシステム思考は、「循環と蓄積」を見る、「全体を見て最適化する」、「つながりを見る」、そして「思い込みを排除する」。こうしたアプローチは、関わる人々の考え方、心理が影響しているような複雑な問題解決に力を発揮します(図4)。

論理思考を始めとする従来型のアプローチの多くは「切り分けて整理する」思考、システム思考を「つながりと変化を捉える」思考と言うこともできます。
図5の左側の論理思考では、広告費は一見「費用」の一部とみなされるかも知れません。けれども広告費は、販売量などを通じて「売上」にも影響を与えます。そんなつながりを見ていくためには、対象をシステムとして捉え、つながりを見るアプローチ、システム思考が有効です。

どちらが優れているという話でもなければ、2つのアプローチは相容れないもの、というわけではありません。システム思考を活用する際にはベースとして論理思考が必要になりますし、何より大切なのは、目的や問題の性質に応じて使い分けること。
関わる人々の考え方や心理が影響していたり、時間的な変化を伴うような複雑な問題──たとえば、「業務の効率化を目的に会議を減らしたら、その時はよかったけど気づいたら信頼関係が薄れて、却って業務の質も効率も落ちてしまった」というような場面には、システム思考が、俄然力を発揮してくれるでしょう。
おわりに
世界が変わるシステム思考【ブログ編】第1回:システム思考とは?はいかがでしたか?
私たち”たまに”は普段から企業さん向けのシステム思考研修もご提供しているのですが、システム思考は、実は子どもでも活用できるような、すごく人間的でエモーショナルなツールであり思考法だし、シンプルにも複雑にも使えるものなんです。
ですから、ここではできるだけ敷居を下げて、基本的な考え方や活用法、活用例を、たまにらしくコツコツとご紹介していきたいと思っています。
次回もぜひお楽しみに!
文:佐竹麗、佐竹奏
図版編集:佐竹奏
図版素材提供:フジイケンジ、斉藤重之
●脚注●
※1 System Dynamicsは、対象となるシステムを変数という構成要素に分解し、変数間の因果関係を連立微分方程式により定義し、コンピュータを用いたシミュレーションによりそのシステムの動的な振る舞いを時系列で観察する技術。
※2 意識・無意識の前提や思い込みのこと。私たちが現実の世界のどこを認識し、いかに解釈し、どのような行動するかを決める。
●参考文献●
湊宣明「実践システム・シンキング:論理思考を超える問題解決のスキル」, 講談社, 2016
ドネラ・H・メドウズ, 枝廣淳子訳.「世界はシステムで動く──いま起きていることの本質をつかむ考え方」, 英治出版, 2015
ドネラ・H・メドウズ, 枝廣淳子訳.「システム思考をはじめてみよう」, 英治出版, 2015.
デイヴィッド・ピーター・ストロー, 小田理一郎.「社会変革のためのシステム思考実践ガイド:共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する」, 英治出版, 2018
●関連リンク●
動画シリーズはこちら:「世界が変わるシステム思考」シリーズ
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