グラレコ的態度のすすめ

グラフィックレコーディング(通称グラレコ)を生業としている。グラレコというのはその場に起きていることをリアルタイムで文字や図・イラストなどおよそ全ての視覚的な要素を組み合わせながら記録していく作業のことで、近年さまざまなイベントで使われることが多い(図1)。

図1 グラフィックレコーディングの例
(2020年11月14日開催:第3回パラトリメディアラボにて筆者作成)

イベントでグラレコが用いられる理由として、大きく3つあると考えている。第一に分かりやすい議事録として残して共有することができ、次のアクションの材料となること。第二に内容の整理や可視化がされ、その場で起きていることを全員で共有しながらディスカッションや対話をすることができること。第三がその場の雰囲気づくりだ。

私はグラレコをやっている時がすっごく楽しい。なので、イベントが3時間なら3時間、ずっと集中したままグラレコできるという特性?を持っている(なお、グラレコをした翌日はエネルギーを放出しすぎてほぼ使い物にならない)。最近はリアルイベントが少ないのでなかなかグラレコのチャンスがなくて寂しく思っている。

まあ私の話は置いておいて、今回はグラレコをみんなやるといいよという話だ。

グラフィックレコーダーが何をしているかというと、インプットしたものを再構成してアウトプットしている。もう少し具体的に言うと様々な視点を持ってその場で起きることを掬い上げ、頭の中で整理して構造化し、文字や図・イラストを使って可視化する。ちなみにそれらの作業を並行して実施している。その作業が実はシステムズエンジニアリングの基礎となるシステム思考に近しい。

システム思考といえば因果ループ図を用いてあらゆるシステムを示すことだと思いがちだが、それは狭義のシステム思考だ。広義には俯瞰的に捉えて体系的に考える「Systemic & Systematic」な考え方を指す。またシステムズエンジニアリングでは複数の専門性を持った人がある目的達成のために連携することを前提としている。バラバラな知識を有した人たちが議論してゴールに向かうには、多様な視点を時々に定めたうえで、構造化して可視化する必要がある。同じ土俵で議論するためだ。ほら、グラレコと同じでしょう。

「多様な視点を時々に定める」という作業は、こちらのブログを参考にしてほしい。

構造化は、簡単に言うと内容を整理し適切に並べることを言う。大事なのは何がその場で問われているか、どのようなコンテクストの中でそれが起きているかだ。それによって何を削り何を書き残すかが変わってくる。その場の問いやコンテクストを常に把握しながら状況整理をしていくのがグラフィックレコーダーの腕の見せ所である。

可視化の方法は様々にあるけれど、ここでは割愛する。実は可視化の方法はトレーニングすれば誰でも短時間で身につけることができるし、書籍やwebサイトでも参考になるものがたくさんある。もし興味があれば研修なども行っているのでご相談ください。

さて私は多様な視点で構造化し可視化するグラフィックレコーダーの振る舞いを、勝手に「グラフィックレコーディング的態度(グラレコ的態度)」と呼んでいる。とても素敵なイラストを描いたりカラフルな色遣いでアウトプットをすることが大事なのではなくて(もちろんそれがあるととてもとても良いのですけど)、みんなが…まあ全員でなくてもその場にいる誰かがグラレコ的態度でいると、世の中の色々なことはうまく進むと思っているし、個人として生きやすくなると思う。

なぜかというとこの予測不可能で複雑な時代に、目の前にあらわれている事象のみを拾い短絡的に判断することは、けして本質的な解決につながらないからだ。色んな角度から物事を受け止め、構造化して整理し、足りないところを埋め、埋めるための問いを立て、視点の異なる他者に伝わるように表していくという作業が、まどろっこしいように見えて実際は最短距離でゴールに向かう方法だったりするのである。

個人としても同じである。何か物事が起きた時に脊髄反射的に反応してしまうのではなくて、一旦受け止めて状況を整理し伝えることができれば、コミュニケーションがうまくいくのではないかと思っている。

文:真鍋薫子
イラスト:斉藤重之