一般社団法人たまに設立に至った背景を、設立メンバーのふたりがそれぞれの視点で書いていきます(うらら編は全4回)。少し長いですが、ふたりの設立までの道のりや、"たまに"の活動に込めた思いの一端を、みなさんと共有できたらうれしいです。
たまにまで うらら編その1はこちら
大学院での研究は、右脳と左脳をフル稼働させて挑む冒険であり、格闘でもあった。
道なき道を行く冒険には予期せぬ敵の出現はつきもので、その度に試行錯誤と格闘を繰り返して、どういう形であれ敵を突破しなければその先の景色を垣間見ることすらできない(新ルートの発見というのも結構重要な打開策で、だから予期せぬ敵を常に克服する必要もないのだけれど)。
ベースとなる概念や理論、背景情報、あるいは調査/実験結果として得られたデータや分析結果といったといったファクトをベースにロジックを組み上げ(主に左脳のお仕事)、それらに対する自分なりの解釈やどんな価値を生み出したいかという意思を強く保ちつつ、心と手と頭を動かしながら本質的な課題や創造的な解決策を模索し(右脳がモノを言うお仕事)、それらを丁寧に掛け合わせて構造物を作り、心を込めて磨いて、組み立ててしくみに仕立て上げ、実験を行い研究にする(右脳も左脳もフル稼働)。
いろんな意味でめちゃくちゃハードでしんどかったけれど、いまだかつてないほどに自分を使い切った2年間。たくさんの方々のお世話になり、この機会でなければ得られなかった貴重なインプットや経験を数え切れないほど得たし、それまでの人生で出会えなかった領域や視座からの学びも多かった。
研究イコールたまにの活動ではないけれど、研究を通じて得た学びは、たまにの活動を行ううえでの重要な礎にもなっている。詳細は追々このブログでポストしていくとして、ここではその代表的な項目について概要をご紹介したい。改めて書き出してみると当たり前のことばかりだけれど、どれも、これからのたまにの活動のなかで大切にしたいことばかりだ。
お互いさまの関係性を保ちながら気持ちよく利用できることの大切さ
修士研究は、「晩ごはん版のAirbnbを作ってご近所さんをつなげないか」というシンプルな着想からスタートした。研究というと、うず高く積まれた文献を読み込む姿を思い浮かべられる方も多いかもしれないが、実際には、やってみなければわからないこともたくさんある。先行研究のレビューや事例分析と並行して、自宅で「隣で晩ごはん」と称したプロトタイプテストを実施してみたりもした。
それらを経てわかったのは、ホストとゲストの間で金銭が行き交い成立するような一般的なシェアリングエコノミーのモデルでは、目指す形でご近所さんをつなげるのは難しいということだった。
その後、課題をいくつかに絞り、日本とイギリスの事例を中心に調査分析を行い試行錯誤を重ねた結果、最終的にこの研究では、ホストとゲストが互いにGiveし合う形を取ることにした。いびつな優越感や負担感を極力生まない、その代わりにポジティブな思いをフィードバックし合える「気持ちのよい」循環を生むしくみを目指したのだ。結果的に、検証のための実証実験では予想以上によい結果を得ることができた。
何をどのように循環させるか。いかに利用者間で気持ちのよい循環が生まれやすいしくみを組み上げるか。
一見似たようなしくみやモデルであっても、こうした点を丁寧に、意図的に設計することで、得られる価値は大きく変わりうる。
お互いさまの関係性を上手に保ちながら気持ちよく利用できるしくみの設計や実装は、修士当時も今も、私にとって重要なテーマであり、目標でもある。
きっかけそのものに価値がある
もうひとつ研究を通じて印象に残ったのは、「きっかけがない」という言葉だ。
あの人が少し気になる、機会があれば声をかけてみたい、といった思いを持つ場面は、ご近所であれどこであれ、少なくはないのではないだろうか。でも、地域にもよるだろうが日本の都市部においては特に、さしたる用もないのに声を掛けると、それだけで、相手を驚かせてしまったり変な人だと思われてしまったりする可能性がそれなりに高いし、ご近所さんだけにまったく知らない人と付き合いが生まれることには不安もつきまとう。自分できっかけを作るのは、怖いことなのだ。
一方、地域コミュニティの中でもっとも開かれた存在であるはずの町内会は、基本的には年齢層が非常に高く、流入してきた現役世代には馴染みにくい存在であることがほとんどで、もはやきっかけにはなりにくい。地域には交流を促すようなイベントはそれなりにあるが、そこで掬い取れる人も限られているのが現状だろう。
修士研究はその意味で、きっかけを探していた人にとって渡りに船だったのだと思う。
だからこそ、短い期間に9人もの方がホストとして名乗りをあげてくださり、実証実験を通じて、92もの新たなつながりが生まれたのだ。
その3へつづく
文:佐竹麗
イラスト:斉藤重之