ウェブサイトのオープン以来、ありがたいことに、いくつかのお問い合わせやご相談をいただいていて、外部の方と"一般社団法人たまに"としてコミュニケーションをとる機会が増えてきた。
それらをきっかけに、社内で(って、ルコちゃんとふたりでだけど)議論を重ねていく中で、私たちのソリューション創出に対するスタンスやひとつひとつの要素に対するアプローチ、それらを統合するフィロソフィーのようなもの──それまでぼんやりとしか見えていなかったもの──が、以前よりも輪郭を伴って見えてくるようになってきた。
「たまにまで」の連載を終えたら、修士研究やその後の活動の中で得た知見やエピソードをみなさんと共有していきたいなぁと考えていたのだけれど、その前に今日は、そうした"たまに"のフィロソフィーのようなものと導入時のアプローチにまつわる私たちの発見を、みなさんと共有したい。
まずは、ちょっとした前提の共有から。
今いただいているお問い合わせやご相談は、新規事業開発のサポートや研究開発のサポートなどの支援案件がほとんどを占める。私たちが現状提供しているサービスは実質支援事業だけだから、それも当然だ。ご相談いただくのは、規模を問わず、社会に新たな価値をもたらそうと試行錯誤をされている方たちばかり。そんな方たちが私たちを見つけてくださりご縁をいただけることは、本当にありがたい。
今春ウェブサイトを立ち上げるときに、「本来であれば、"Our Approach"みたいなページも作りたいよね」という話を何度かしてはいて、実際手を動かしてはみたものの、どうもイメージを掴みきれずに、形にできずにいた。
何を大切にしていてどのような基準で物事を判断するのか、よりよい成果を生み出すためにどんなアプローチをどのようにとるのか...。自分たちにとっては当たり前の、でも言語化したり構造化しようしたりとすると、雲のように掴みどころのなかった様々な要素。それらが、具体的なご相談をいただき、相手が見え、コミュニケーションをとらせていただくうち、輪郭を伴って目の前に立ち上がってきた。
あくまでも、長期的な価値に軸足を置く
"たまに"はもともと、「ちょっとした時に(できればface to faceで)支え合えるような、ゆるやかで気持ちのよいつながりを増やし活性化する」という、すぐにお金に換えることはできない、けれども社会全体にとっても個々人にとっても長期的には大きな価値を生み出すソリューションを増殖させるために立ち上がった。
換言すると、"たまに"は、個々人と社会全体にとって長期的な価値を高めるしくみを増やすために存在しているのであって、短期的な価値の追求のためではない。だから、支援サービスにおいても自ずと、短期的な「結果」よりも、クライアントやその先にいる顧客にとって持続可能でウェルビーイングな価値をもたらすソリューションの創造に注力することになる。
ソリューションにおいて何をどう優先するかは、当然ながらクライアントとのワークやディスカッションを通じて協働で見出していくことになるのだが、プロセスのデザインや分析の視点、それらを成立させるためのコミュニケーション等、すべての要素は、長期的な価値を求める"たまに"らしさが反映されたアプローチやスタイルで提供される。
そうした私たちのフィロソフィーのようなものを、ここではひとまず導入時のアプローチという具体例を通じてご紹介したい。
導入時における3つのステップ
"たまに"の支援事業導入時のステップは、大きく括ると下記の3ステップに分けられる。
Step1. WILLに"どうありたいか"を込める Step2.「新たな問い」をベースに解空間を拡張する Step3.ウェルビーイングで心躍る解空間にダイブする |
早速、順を追って各ステップを見ていこう。
Step1. WILLに"どうありたいか"を込める
ご相談をいただく際、当然ながらご相談者は何かしらお悩みを抱えている。その内容を伺った後で、もしもその内容にソリューション案が含まれているとしたら、私たちはまず、いただいたソリューション案をそっと脇に置く。そして、クライアントの「WILL」と「CAN」とを棚卸しして、両者の重なる部分を見つけていく(図1)。
WILLは通常、「意思」とも訳され、「何をどうしたいと思っているか」がフォーカスされがちだが、私たちは、「どうありたいと願っているか」を同等あるいはそれ以上に大切にする(クライアントに個別のワークをお願いすることもある)。
また、CANとしては通常、スキルや予算、人的リソースなどがフォーカスされがちだが、私たちは「Constrains=制約」も同等あるいはそれ以上に重要視する。人生、仕事以外にも時間や愛情を注がなければならないものは案外多いものだ。やってみないとわからないことは多いし、何を優先するかは様々だけれど、すぐに飛びつきたくなるような優れたアイディアやソリューションであっても、クライアントにとって、実装までのプロセスやその後の運用がハッピーなものにならないなら、その道は選ぶべきではない。その判断の材料として、制約を適切に把握することはとても重要だ。
WILLとCANの重なる領域を特定したら、今度は新たな問いを立てる。こうしたプロセスを経て生まれた新たな問いは、たいてい当初のご依頼内容よりも、より「上位の目的」、つまり、「その事業や企画を通じて"本当に"何を得たいのか」に直結した問いになるものだ。同時に、クライアントにとってよりサステイナブルでウェルビーイングであり、かつ実現シーンを想像するだけでワクワクするようなソリューションが発見できる領域を照らす道標になる。
Step2.「新たな問い」をベースに解空間を拡張する
新たな問いがある程度明確になったら、今度は解空間を大きく大きくふくらませる(図2)。ときには予算的、時間的、空間的な様々な制約を忘れて妄想を膨らませたり、獣道に足を踏み入れ深い森の闇の中を偵察の旅に出たりもする。
実際にこれらはイタレーティブな(行ったり来たりの)プロセスで、クライアントによっては「意味がないのでは?」と感じられる場合があるかもしれない。だがここは、できれば丁寧にいきたいところ。なぜならこのプロセスを充分に踏めるかで、解空間の質や広さが大きく変わってくるからだ。
もちろん、プロジェクトは常にQCD(Quality-Cost-Delivery)のバランスを取ることが求められるから、旅は時に濃密で急ぎ足にもなる。"たまに"といえども、そこはしばしば心も体もフル回転させるし、クライアントに踏ん張っていただかなければならない。
だからもし、私たちにご相談しようか検討されている方がいらしたら、こうした探索や試行錯誤の道のりを、私たちと一緒に楽しめそうかどうか、楽しみたいかどうかを一度ご自身に問うてみていただけるととてもありがたい。「正しい答え」など存在しない問いへの解を創造する旅は、旅人がその旅を心から楽しむことなくして、輝くことはないだろうから。
Step3.ウェルビーイングで心躍る解空間にダイブする
ここまでの準備を経て、Step1で整理したWILL×CANの領域とStep2で膨らませた解空間とを重ね合わせると、はじめてソリューションを探索・創出する解空間が輪郭を持つ(図3)。この領域で私たちは、クライアントの顧客にとってのwinにもつながるソリューションを探っていくことになる。
もしかすると、解空間がぐっと「狭まってしまった」ように見えるかもしれないが、心配は無用だ。むしろ、適切な条件で解空間を狭めることは価値あるソリューションを生み出すためには必須のプロセス。大切なのは、一見狭く見えるかもしれないこの解空間に、全身全霊でダイブインしてみることだ。
慣れない方には勇気がいるプロセスであることは、私たちも重々承知している。でも、考えようによってはいつでも戻ってくることはできるのだから、安心して、ちょっとだけ勇気を出して、一度他の選択肢をすべて手放して、選んだ解空間の中に一緒に飛び込んでみて欲しい。どんなに狭く見えても、飛び込んでみれば、その先には予想もしなかった広大な宇宙が広がっているものだ。
結果にも目的にもコミットしない、かもしれない
以上、私たちのフィロソフィーのようなものをご紹介する一例として、導入時のアプローチをご紹介した。支援事業全体のプロセスについては概要をこちらのページにお示ししてあるので、ご興味があればご覧いただけるとうれしい。
"たまに"は、もしかしたら、クライアントが当初期待している結果にもコミットしないかもしれない。
でも、この点についても心配はいらない。
私たちがコミットするのは、そうした結果や目的の先にある、「上位の目的」、つまり、クライアントとその顧客の双方にとってwin-winでウェルビーイングなソリューションを描き創出することであり、そのプロセスには必ずや、思いも寄らない発見と恵みとが、待ち受けているはずだから。
文・図:佐竹麗
イラスト:斉藤重之